不動産の話

不動産を相続した場合に押さえておきたい売却・有効活用の注意点と税金のこと

今回は不動産を相続した際の注意点について分かりやすく解説していきます。

相続は突然やってきます。いざというときに困らないように最低限の知識を持っておくことは重要です。何も知らないまま相続を迎え、慌てて売却したりすると思わぬ損をすることがあるからです。

特に相続税がかかる場合には、相続が発生してから10か月以内に納税をしなくてはいけません。

不動産をスムースに売却できるように事前に打てる手だてがあります。しっかり準備していざというときに困らないようにしましょう。

この記事の信頼性

この記事はこんな人が書いています。

  • 財閥系不動産仲介会社で17年間に亘って仲介業務を経験
  • 現在まで300組以上の売買仲介案件を成約
  • 宅地建物取引士
  • 1級ファイナンシャルプランナー
  • CFP認定者

相続した不動産を売却するワケ

不動産を相続した際の選択肢は、「売却」「有効活用」「保有」です。特に売却については、親兄弟から引き受けた大切な不動産を処分する行為ですし、手続きも煩雑なのに何故そのようなことをするのでしょう。理由は主に3つです。

  • 相続税の支払い
  • 共有の解消
  • 不要資産

相続税の支払い

相続税の細かい計算方法を説明するとかえって混乱するのでシンプルに説明します。故人から相続する財産が基礎控除額を超える場合には相続税がかかります。

基礎控除額

3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば、夫が亡くなり、相続人が妻と子供2人の場合なら、

3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除の額となります。相続財産が4,800万円を超える場合には、その超える部分に対して課税されます。言い換えれば、相続財産が4,800万円以下である場合には相続税は課税されません。

そして、最も重要な点は、相続税がかかる場合には、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に納税しなくてはいけないということです。

納税は現金一括納付が原則です。したがって、納税資金がなければ相続した不動産を売却して納税資金を捻出する必要があるのです。

共有の解消

不動産の売却理由の上位が「共有名義の解消」です。相続する不動産はすべてが被相続人(亡くなった人)の単有名義とは限りません。夫婦や親兄弟と共有名義になっている場合もあるわけです。

共有名義の相手方と不仲である場合は売って現金化したいのが人の心理です。

共有名義の不動産がやっかいなのは、共有者全員が同意しなければ、売却することができない点です。

10人で共有の不動産があって、9人が売却に同意しても、たった1人が反対すれば、その不動産は売ることができません。

2次相続、3次相続で共有者がどんどん増えていくと、コントロールすることは非常に困難になります。そうなる前に売却したいわけです。

相続手続きに必要なもの

売却する際には亡くなった人からその不動産を引き受ける人の名義に不動産登記を変更する相続登記が必要となります。相続登記に必要な書類は下記のとおりです。

  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票
  • 不動産取得者の住民票
  • 相続する不動産の固定資産評価証明書

すべて市区町村役場で取得できます。(東京23区の場合は固定資産税評価証明書は都税事務所で取得できます)

なお、上記書類に加えて、遺言に基いて相続する場合には「遺言書」、相続人同士の話し合いに基いて相続する場合は「遺産分割協議書」と「相続人全員の印鑑証明書」が必要となります。

特に面倒なのは被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本で、結婚や両親の事情などで本籍が変更となっていることが多いので、全ての役所から請求しなくてはいけません。費用はかかりますが面倒な場合は相続登記を依頼する司法書士へ頼んでしまうのも手です。司法書士は委任状があれば職権で戸籍関係書類を取得することができます。

相続登記が完了した後、不動産売却をする際には下記書類が必要となります。

  • 登記識別情報(登記済権利書)
  • 印鑑証明書
  • 住民票(登記上の住所と異なる場合)
  • 実印
  • 本人確認書類

押さえるべき税金の特例

相続税の支払いを目的に不動産を売却する場合、絶対に押さえておく必要がある税金の特例があります。それが「小規模宅地等の評価減の特例」です。

被相続人の居住用や事業用であった宅地等に高額な相続税を課した場合、被相続人が死亡したあと、相続人が居住したり、事業を引き継ぐことができなくなってしまいます。そこで、このような宅地については、通常の評価額から一定割合の評価減を受けることができるという特例です。

具体的な評価減の内容は下記のとおりです。

小規模宅地等の評価減の特例

利用区分減額割合限度面積
居住用80%330㎡
事業用(※1)80%400㎡
貸付用(※2)50%200㎡
※1.会社や店舗の敷地等、※2.アパートの敷地等

限度面積とは、例えば500㎡の居住用の宅地であれば、500㎡のうち330㎡に相当する部分については80%減額評価しますよ、残りの170㎡(500㎡-330㎡)に相当する部分は減額評価なく通常通り課税しますという意味です。

自宅や事業を営んでいた会社・店舗の敷地であれば80%も評価が減額されるのです。これは非常に節税効果の大きい特例です。

ただし、この特例を利用するためには下記のいずれの条件を満たす必要あります。

居住用

相続する人要件
①配偶者特になし
②被相続人と同居していた親族その宅地を相続取得し、申告期限まで所有&居住し続ける
①②以外の人自己or親族の持ち家に住んだことがないこと
事業用
相続する人要件
事業を承継した親族その宅地を相続取得し、申告期限まで所有&事業を続ける

居住用については、配偶者が対象不動産を相続する、または被相続人と同居していた親族が相続して相続税の申告期限まで所有かつ居住することで相続税の評価を減額することができ、有効な相続税対策となります。

相続税支払いのために不動産を売却する場合の注意点

期日までに現金化する必要があるため、相続税支払いを目的とした不動産の売却には注意が必要です。

測量

土地・戸建などを売却する場合には、原則、売主側での測量が必要となります。測量をする目的は以下のとおりです。

  • 正確な土地面積の確認
  • 売買対象の区域を明示
  • 隣地との所有権境の確定
  • 越境物の確認
  • 土地を分割する場合に必ず必要

一番重要な点は、測量はものすごく時間がかかるということです。

一概に言えませんが、目安として一般的な測量の場合で2か月程度、前面道路との境界も含めて接する隣地全てとの境界を確定させる確定測量の場合は3か月~4か月かかります。

不動産を売却する場合、通常は物件の引き渡しまでに測量が完了していることが条件となります。

買主が資金の準備ができていて、売主もいつでも決済できる状態でも、測量が終わっていないがために決済(引き渡し)できないというケースはよくあります。

相続税の支払いまでに決済できないとアウトです。時間に余裕をもって測量をスタートすることが肝心です。

不動産売却における測量の重要性とスケジュール等の詳細については下記の記事にまとめていますので興味のある方は合わせて読んで下さい。

土地の売却になぜ測量が必要なのか? どうも皆さんこんにちは。 ミナンチャです。 土地や戸建を売却するとき、不動産屋から必ず「測量しましょう」と言われます。登記...

売却方法

不動産を売却する場合、個人に向けての販売とプロの不動産買取業者に向けての販売の2つの方法があります。

個人へ売却する方が相場で売却できるため、一般的にはプロの不動産買取業者へ売却するより高値で売却ができます。しかし、個人の買主を探すのには時間がかかりますし、価格設定が高い場合にはそもそも買手がつかないという可能性もあります。

高く売却することはとても大切なことですが、そのことに囚われるばかりに時間切れとなり、相続税の納税期日に現金化が間に合わないという事態は避けなくてはいけません。

相続税の支払いのために売却する場合には、市場に公開する前に、不動産仲介会社を通じて、先にプロの買い取り業者の価格を打診して最低売却可能価格を把握しておくことが重要です。

いざとなったら必ず現金化できる逃げ道を作っておき、納税期日に間に合いそうになければ、相場より割安な価格となっても買取業者へ売却する腹づもりを持つことが必要です。

相続した不動産の有効活用の注意点

相続税の支払いがない場合や売却の必要性がない場合には相続した不動産の有効活用が選択肢に入ってきます。

具体的には古家を取り壊して、アパートやマンションを建築して、収益不動産として活用するなどのケースです。

この場合にも注意点がいくつかあります。

共有名義にしない

単有名義で所有し、他の相続人や共有者との共有名義にしないことが重要となります。

先にも説明のとおり、不動産は売却するのにも、運営方針を変更するのにも共有者全員の意思統一が必要となります。

今は共有者との関係が良好でも、相続や管理運営方針を巡って関係が悪化することもありますし、共有者に二次相続が発生すれば顔も見たことのない遠い親戚との共有名義になってしまう可能性もあります。

将来的に意見が割れれば、売ろうと思った時に売れないという事態にもなりかねません。

立地を見極める

すべての不動産が有効活用に向いているとは限りません。駅から遠い物件や、既に収益物件として運営されているが、ワンルーム中心の市場性に乏しい物件、経年劣化が激しく建て替えが必要だが、立ち退きが難しい物件など、収益物件として運営するには相応しくないものも多々あります。

有効活用に不向きな物件を無理に運営するよりは、株などの他の金融商品で運用した方が収益率が良い場合もあります。

有効活用に踏み切る前に、複数のハウスメーカーへ建築プランを引いてもらったり、賃貸不動産会社へ見込み賃料の査定を相談したりして、しっかりと見極めた方が良いでしょう。

賃貸経営は楽ではない

大家業というと、寝てても賃料が入ってくる悠々自適な姿を想像されるかもしれませんが、実態はそんな楽ではありません。

管理業の実務は管理会社に委託できますが、賃借人とのトラブル解決の判断や入退退去にかかる不動産屋とのやり取りなど思っている以上に面倒です。

不動産賃貸経営は文字通り投資というよりも「事業」の側面が強いです。

不動産が好きであるとか、既に不動産賃貸経営を経験されており煩わしさを感じないという方なら良いですが、そうでない場合で、株式投資などのような純粋なキャッシュフローを期待されているのなら、不動産賃貸経営を本当にしたいのか今一度自問した方がよいでしょう。

不動産投資において知っておくべき論点について下記の記事にまとめていますので、ご興味ある方は是非ご一読ください。

不動産屋ですが不動産投資より株式投資をお勧めします 皆さんこんにちは。不動産屋のミナンチャです。 皆さん投資といえば思いつくものは何でしょうか?株・不動産・金・先物・FX・暗号資産...

相続時に困らないための対策

相続はいつ起こるか分かりません。残された人が困らないように今のうちからできる対策に取り組むことが大切です。

測量をしておく

区分所有物件(マンション)を除いて、不動産の売却には売主の責任による土地の測量が必要となります。

隣地が境界の確認書類に印鑑を押してくれないとか、行方不明で印鑑が取れないなど、不動産の仕事をしているとこのようなトラブルは良く目にします。

不動産の売買契約を締結してから、測量を開始して、測量が完了することを条件に物件の引き渡しをする流れで取引を進めると、万一、測量に関するトラブルが起きた時に決済ができず非常に悩ましい状況になります。

現在の測量技術は昔と違い精度が高く再現性にも優れています。

売却する際にどうせやらなくてはいけないのであれば、先にやってしまう方が賢明です。

仮に売却しなかったとしても、境界をしっかり確定させておくことは後々の近隣との境界トラブルを防止し、その土地の資産価値も高めます。

不採算・低流通性の物件の整理

ずばり田舎の物件です。相続で引き受けたものの利用する予定もなく放置されているような物件ですとか、別荘として購入したリゾート物件などが不採算かつ流通性の乏しい物件と言えるでしょう。

これらの物件を売るのはそう簡単ではありません。場合によってはタダで引き取ってもらうことすら困難な場合があります。しかし、あなたの代でしっかり整理しておかないと引き継いだ相続人が同じ思いを強いられます。ただただ固定資産税を払い続けるだけの金食い虫となります。

こういった物件は、早いうちから価格が多少安くなったとしても、売却活動に取り組むようにしましょう。

なお、長期戦は覚悟しておきましょう。

不動産の評価減

相続税の評価を引き下げるいわゆる「相続対策」の方法は様々存在します。不動産に関連するメジャーな方法には下記の方法があります。

  • タワーマンション等を購入する
  • 所有の更地や駐車場に賃貸マンションを建築する

いずれの方法も発想の根底は同じで、現金などを多く保有している場合において、相続税評価の圧縮効果の高い不動産を購入することで、相続税評価額を引き下げることを目的とするものです。

現金1億円の相続税評価は1億円で変わりませんが、その現金で不動産を購入すれば、市場価値が1億円の不動産であっても相続税評価は3,000万円程度になる場合もあります。特にタワーマンション等の世帯数が多い物件は土地の権利をその世帯数を分母として按分しますので、相続税評価の圧縮効果が非常に高いのです。

また、更地の物件も賃貸マンションを建築することで相続税評価を下げることができます。相続税の仕組み上、貸家が立っている土地は相続税評価が引き下げられます。

遺言の作成

不動産は現金や株式などと違って、価値を等しく分割することが難しい資産です。土地を2分割する場合であっても南側か北側なのか、接面道路の幅員や地形がどうなのかによって、分割した2つの土地の価値には差が生じます。

先にも述べたとおり、共有名義で不動産を所有することもお勧めできません。

相続人同士の財産を巡るトラブルの可能性を少しでも軽減するため、不動産を所有する場合には遺言を作成して、相続人へ道しるべを残してあげるのが賢明でしょう。

小規模宅地等の評価減の特例などの税制メリットも考慮して、誰に不動産を残すのかを検討するのも有効です。

まとめ

相続は突然やってきます。その場合に備えて最低限の知識を持っておくことが重要です。

相続税がかかる場合には、相続が発生してから10か月以内に納税をしなくてはいけません。特に相続財産に不動産が多い場合には、不動産をスムーズに売却できるように事前に打てる手だてをしっかり準備しておき、いざというときに困らないようにしましょう。

今回の記事がみなさんのお役にたてば幸いです。

今回もここまで読んで下さり、ありがとうございました!

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