不動産業者への売却、いわゆる業者買取ですが、世間では安く買いたたかれて損をするというイメージが強いようです。価格のみに焦点を当てれば半分正解です。しかし、不動産業者へ売却することは本当にただ損するだけなのでしょうか。
今回は、価格の背後に隠れる不動産業者への売却に関するメリットとデメリットについて不動産仲介者の立場として実態を解説したいと思います。
この記事を読めば、不動産屋の言うことをただ受け入れるだけでなく、自身の売却事情にあった正しい売り方を選択できるようになります。
この記事の信頼性
この記事はこんな人が書いています。
- 財閥系不動産会社で長年にわたり売買仲介を経験
- 現在まで300組以上の売買仲介案件を成約
- 宅地建物取引士
- 1級ファイナンシャルプランナー
- CFP認定者
業者買取のメリット・デメリット
まずは一般個人へ売却した場合と、不動産業者へ売却した場合のメリット・デメリットについて結論から言います。
【メリット】
- 市場相場で売却できる
【デメリット】
- 買い手が付くまでに時間がかかる
- 近所に売却していることが知れる
- 週末に物件内覧の対応が必要
- 売却後の物件の欠陥に責任を負う
- 取引中に細かい交渉やクレームがある
- 融資不調による解約リスクがある
【メリット】
- 短期間で売却が完了し現金化できる
- 近隣に内密で売却することができる
- 売却後の物件の欠陥に責任を負わない
- 融通がきいて取引中の煩わしさがない
- 資金調達不調による解約リスクが低い
- 物件規模によっては入札方式も可能
【デメリット】
- 市場相場より割安な売却価格となる
売却先選定のポイント
売却先を一般個人にするか業者にするかの判断ポイントは、”楽”をとるか”価格”をとるかです。
上記のメリット・デメリットで説明のとおり、不動産業者に売るメリットの共通点は「あらゆる面倒とリスクを買主に押し付けられる」ことです。
少し専門的ではありますが、不動産業者へ売却する際には、取引条件として売主が契約不適合責任(物件に瑕疵があった場合の補修責任)を負わない形式が一般的です。
すなわち、故意に隠匿していた物件の瑕疵を除き、引き渡し後に物件に関して不測の欠陥があった場合であっても売主は一切の責任を負わなくて良いのです。
また、一般的に不動産業者に向けて売却する場合には、インターネット広告をしたり、不動産仲介会社間で情報を流通させたりせずに、入札方式等で価格を競わせて内々に売却することが多いため、非公開かつ早期に売却することが可能です。
加えて、個人の買主と異なり、メインバンクから融資を受けるため、融資が不調となることはほぼありません。(万一、融資が否認された場合であっても買主は白紙解除はできない条件で契約します)
その代わり、買主がこれらのリスクを引き受ける代わりに、市場相場よりも割安での売買となるわけです。
不動産仲介会社の視点と考え方
不動産にまつわる情報は実態が見えにくく玉石混合です。実態はどうなのでしょうか。今度は売主さんの窓口となる不動産仲介会社の視点から売却先選定の実態を解説していきます。
腕利きの営業マンには初回面談時に結末が見えている
不動産屋にとって売主さんとの初回面談は非常に重要です。彼らが重要視するポイントは「物件特性」と「売却理由」です。どんな物件でなぜ売りたいのかがとても大切なのです。
物件特性に関しては、売却についての「難易度」を見ます。具体的には個人の買い手が付く物件なのかどうかを見て売却方法を判断します。
売却理由に関しては、事情は様々ですが一般的に下記のような理由が殆どですので、それらの事情に見合った売却方法を検討します。
- 買い替え
- 相続取得物件の換金
- 相続税の納税
- 債務返済
- 共有解消(離婚含む)
それぞれの売却理由の背後には「売却までの時間制限」と「価格へのこだわり」があります。
売却までの時間制限に関しては、買い替えなどで既に先行して住み替え先を購入している場合はその残金決済の時までに売却して資金調達する必要がありますし、相続案件の場合であれば原則として相続発生から10か月以内に不動産を現金化して相続税を納税する必要があるからです。
また、価格へのこだわりに関しては、相続取得物件をただ換金したいという場合は、棚から牡丹餅で手に入れた不動産のため、極力高く売って手元資金を確保したい考えるのが一般的である一方、共有解消などの場合は、心情的ストレスから少しでも早く解放されることを優先する傾向にあり、価格にはあまりこだわりがない場合が多かったりするからです。
これらの売却相談の背景にある事情を良く聞き、具体的な売却先を「一般個人」か「不動産業者」のどちらにすべきか判断するのです。
個人向けに売りやすい物件であったり、売却までに時間がかかっても構わず、なるだけ高く売りたい等の場合は一般個人に向けた販売。
一方、物件規模が大きくて総額が張るため個人では買い切れない、物件に重大な瑕疵(欠陥)があり個人に向けて売るのが難しい、または、決められた期日までに売却する必要があったり、売り急いでいる場合は「不動産業者」に向けた販売を想定します。
不動産業者へ売りたいのが営業マンの本音
不動産仲介会社の営業マンは可能であれば物件を業者へ売りたいのが本音です。
理由は2つです。ひとつ目は「楽」だからです。二つ目は「再販売の受託」ができるためです。
まず「楽」についてです。
これは不動産仲介会社にとっても先ほど説明した売主さんのメリットと同様です。
ある程度取引実績のあるプロであれば取引中も売却後もうるさいことを言いません。売主さんが多少わがままを言ったり、取引中に不動産仲介会社側に少々のミスがあっても飲み込んでくれます。プロ業者からすれば多少面倒を被っても、不動産仲介会社から次回の取引で融通してもらったり割安な物件を回してもらったりすることの方がよっぽど重要だからです。
不動産仲介会社からしても、問題や面倒を起こしたり、融通の利かない業者は二度と付き合いませんし、物件紹介も以後一切しません。取引による信頼の積み重ねで成り立っているからです。
次に「再販売の受託」についてです。
不動産仲介会社の貢献により業者が物件を購入する場合、あらかじめ不動産仲介会社と当該業者との間で、仕入れた物件を加工して転売する際に販売を請け負う約束をして取引をします。
つまり、不動産仲介会社は対象取引で売主さんとプロ業者の双方から売買代金の3%の手数料をとり取引を完了させ、その後に仕入れた物件の再販売の際にも成約活動に介入して、業者から再販物件の売買代金の3%を取り、さらに再販取引において買主を自らが連れてくれば、その買主からも同様に手数料を取ります。
すなわち初回取引で3%+3%、再販取引に3%+3%、合計で12%の仲介手数料を取る仕組みです。倍々ゲームで手数料を稼いでいく訳です。
不動産仲介会社からしてみても以上のメリットがあるためです。
ただし、「楽」については先ほどの説明のとおり、売主さんにとってもメリットがあるため、売却する事情によってはプロへの売却が一概に悪いというわけではありません。個人買主では実現できない事情を汲み取り、取引を円滑に進めるために有益な場合は多々あります。
最後に
個人の買主への売却と業者への売却のメリット・デメリットを良く理解し、ご自身の売却事情に合わせて選択することが重要です。
個人向けに十分売却できる物件で時間をかけても市場相場で売却したいのであれば、もちろん個人へ売るべく販売すべきでしょう。
不動産売却を検討されている方がいらっしゃいましたら、合わせて、不動産仲介会社側の目線も知っていただき、ご自身の売却方針と照らし合わせて適切な売却方法を選択して欲しいと思います。皆さまと素晴らしい買主さんとの出会いを応援しております。
ここまで読んで下さりありがとうございました!