不動産の話

不動産の手付金について種類・相場・支払方法の基礎を解説。各種特約も教えます。

突然ですが不動産の売買契約時に授受する手付金について正しく理解していますか?

今回の記事ではみんな何となく分かったつもりになっている手付金について解説していきます。正しい知識を持てば、売主・買主ともに授受するお金の意味を理解し、安全な取引の実現に役立ちます。

それでは行ってみましょう

この記事の信頼性

ミナンチャ

この記事はこんな人が書いています。

  • 財閥系不動産会社で長年にわたり売買仲介を専任
  • 現在まで300組以上の売買仲介案件を成約
  • 宅地建物取引士
  • 1級ファイナンシャルプランナー
  • CFP認定者

手付金の種類は3つある

手付金とひとまとめに呼ばれていますが、手付金にも種類が3つあります。それぞれの特性を説明します。

1.解約手付

契約の解除権の性質をもつ手付金。理由の如何を問わず、買主は手付金を放棄、売主は手付金を倍返しすることで売買契約を解除することができます。不動産売買の殆どが解約手付の取引です。

契約条文

第 ● 条(手付解除)

1.売主および買主は、●年●月●日までであれば、互いに書面により通知して、本契約を解除することができます。

2.売主が前項により本契約を解除するときは、売主は、買主に対し、手付金の倍額の金員を提供しなくてはいけません。買主が、前項により解除するときは、買主は売主に対し、支払い済みの手付金の返還請求を放棄します。

2.証約手付

契約の成立を証明するための証拠という趣旨で授受される手付金。解約手付と違い解除権の性質はありません。

契約条文

第 ● 条(証約手付)

本契約に定める手付金は証約手付とし、売主および買主ともに履行に着手する前であっても本契約を解除することはできません。

3.違約手付

売主・買主に債務不履行(契約で約束したことが実行されないこと)があったとき、罰として没収できる主旨で授受される手付金。(損害賠償は別途請求することができます)

契約条文

第 ● 条(違約手付)

本契約に定める手付金は違約手付とし、売主および買主ともに履行に着手する前であっても本契約を解除することはできません。

第 ● 条(契約違反による解除)

1.売主または買主のいずれか一方が本契約に違反したときは、相手方は催告のうえ、本契約を解除できます。

2.買主の違約によって本契約が解除されたときは、手付金は、売主が取得し、買主に返還する義務を負いません。

3.売主の違約によって本契約が解除されたときは、売主は受領済みの手付金を買主に返還するとともに更にこれと同額の違約金を買主に支払います。

手付金の額はいくらか?

個人間での取引では、手付金の額は売買代金の5%~10%が慣行です。(宅建業者が自ら売主となる売買契約では代金の20%を超える手付金を受け取ることができません)

手付金を授受する目的は売買契約の拘束力を高めることですから、解約手付において、著しく低い額を設定しては、買主は「手付金を放棄すれば」、売主は「倍返しすれば」契約を解除できるため、解約が安易に可能となり、手付金本来の意味がなくなってしまいます。

支払方法

現金・振込・預金小切手の方法が用いられますが、一般的に概ね300万円以下の場合では現金で受け渡しすることが多いです。高額になると持ち運びにも不安がありますし、勘定も手間ですので振込か預金小切手で行われる場合が多いでしょう。

現金の場合、高額となりますのでATMでは限度額によって引き出せませんので、買主が事前に銀行窓口で出金して用意することになります。売買契約の調印が完了した後、面前で売主へ支払いを行い、売主がこれを確認します。少額であれば手勘定する場合もありますし、高額であれば不動産会社には大抵は勘定械がありますので、そちらを利用します。

振込の場合、売買契約の調印が完了した後、そのまま買主と買主側の不動産仲介会社の担当者が契約の場を離席して、最寄りの銀行窓口へ行って、売主の指定する銀行口座へ振込送金の手続きをします。振込後に確認のため振込用紙を持って契約の場へ戻ります。売主がその場でスマホ等で着金確認をして完了となります。

なお、手付金の授受は売買契約締結と同時であることが原則ですが、売主や買主の事情や希望によって売買契約と同日に振込ができない場合は、後日、買主が売主の指定する銀行口座へ振込送金する方法がとられます。その場合には、先述の手付金の契約条項に加えて、売買契約書へ下記の特約を付して売買がおこなわれます。これには手付金の授受前に契約を解除する場合において、債務不履行の損害賠償を適用しないようにする意味合いがあります。

特約条項

第 ● 条(手付金授受前の解約)

1.売主および買主は、買主の責任と負担において、手付金として金●●円を●年●月●日までに、売主の指定する口座に振り込むことを確認します。

2.売主および買主は、手付金が売主に着金するまでは、相手方に通知のうえ、手付金と同額を相手方に支払うことで、本契約を解除することができます。

預金小切手の場合は、買主が事前に銀行に出向いて用意して持参します。

小切手と聞くと、持参した白紙の小切手にサインして相手に渡すイメージがあるかと思いますが、不動産取引ではそのような個人が振り出した小切手を使用することはなく、金融機関が振り出した「預金小切手」を利用するのが通常です。

預金小切手とは不動産取引では預手(よて)と略されることがあり、金融機関に現金と手数料を支払うと発行されるもので、支払人が金融機関であるものを指します。支払人が金融機関であるため、不渡りになることはありません。

一般的には「線引き小切手」の「持参人払い」の預金小切手が利用されます。線引き小切手とは、預金小切手の端に平行線が2本引かれ、その間に銀行やBANKの記載があるものを言います。線引き小切手は現金へ換金するのではなく、換金者の銀行口座に入金される性質のため、換金者の身元の特定が可能です。これにより、小切手の盗難や紛失時に換金者を追跡することができるという特徴を持っています。持参人払いとは換金者を特定せず、銀行に小切手を持参した人であれば、誰でも換金ができる小切手を言います。

預金小切手も現金の場合と同様に売買契約締結後に面前で買主から売主へ渡され、売主がこれを確認することで手付金の授受完了となります。

手付解除期日の目安

解約手付の場合、先に説明したとおり「何の理由なく」解除ができるということですから、期日の指定がされていなければ、相手方からみれば、いつ解除されるか分からないということになり、非常に不安定な立場に立たされていると言えます。

従って、いつの時点まで解除が可能なのかを明確にするために解除期日を設定する必要があるのです。

手付金の解除期日は売買契約締結から残代金支払日(決済日)に至るまでの過程を十分に考慮して、売主と買主双方の合意によって決定しなければなりませんが、一般的には下記を目安にすると良いでしょう。

契約日から決済日までの期間標準とする手付解除期日(目安)
1ヶ月以内決済日の1週間前から10日前
1ヶ月~3か月契約日から1ヶ月前後
4か月~6ヵ月契約日から2~3か月前後
6ヵ月以上契約日から決済日の中間

最後に

不動産の売買契約時に授受する手付金について種類、相場、支払方法等の基礎とそれらに対応する特約を解説しました。

手付金も売買契約の決め事のうちのひとつです。大切なことは取引関係者が総じて無理のない契約内容にすることでしょう。売主や買主、不動産会社の一方的な都合によって厳しい条件や負担の多い作業を押し付けないように心がけるべきです。

関係者で良く相談し、しっかりと理解して不動産取引を進めていきましょう。

今回もここまで読んで下さりありがとうございました!

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