何千万円、何億円という物件を買う時、ご自身で物件を調べていますか?もちろん不動産屋が入念に調査をして取引するのですが、不動産屋任せで購入して、重要事項説明は受けたものの理解しきれず、こんなはずではなかったとなっては大変です。
不動産の失敗は人生そのものを潰しかねないリスクがあります。
だからこそ、自分で気に入って大金を出して買う物件については、自分で最低限のポイントについて物件を調べられるようになり、安心して買いたいものです。
今回は土地・建物を買う際に最も重要な「道路」に注目して、物件調査の方法とポイントを解説していきます。
なぜ調査が必要で何をどこで調べれば良いのかというポイントさえ押さえてしまえば、素人でも簡単に物件に潜むリスクを知ることができます。
現役の不動産屋の僕が基礎から解説しますので、絶対に分かるようになります。是非、最後まで読んでみて下さい。
それでは行ってみましょう!
この記事で分かること
この記事の信頼性
この記事はこんな人が書いています。
- 業界大手の財閥系不動産仲介会社で17年間にわたって仲介業務を経験
- 現在まで300組以上の売買仲介案件を成約
- 宅地建物取引士
- 1級ファイナンシャルプランナー
- CFP認定者
※本記事執筆時点の内容です。
なぜ道路調査が重要なのか?
冒頭で土地、戸建の売買において道路の調査が最も重要であると書きました。それは下記のような物件に潜むリスクの有無をつまびらかにし、そのリスクへの対処や物件を買うかどうかの判断材料とするためです。
- 建物を再建築できない土地
- 想定よりも使える土地面積が小さい
- 通行できない道に面している
- 物件の引き渡し時期がだいぶ先になる
- 将来、売ることが難しい土地
いずれも共通しているポイントは、買主の建築する建物に大きな影響を及ぼすという点です。想定よりも使える敷地面積が小さくなれば、希望していた大きさや間取りの建物のプランが入らないかもしれませんし、物件の引き渡しが著しく遅れれば、工期に影響するため、建物建築の計画変更を余儀なくされる恐れもあります。
そもそも建物の建築ができないという土地もたくさん存在しており、この欠陥を見落とすとダメージは致命的です。
不動産の失敗は非常に怖いということを覚えておきましょう。
最低限知っておくべき不動産の基礎知識
まずは基礎の基礎を押さえておきましょう。難しい専門用語を覚える必要はありません。最低限知っておくべき重要ポイントは下記のとおりです。
「道路」に2m以上接していないと建物は建てられない
「道路」に見えるけど「道路」ではない道がある
自分の土地の一部を道路に提供しないといけない場合がある
私道を通行するには所有者の承諾が必要
順番に解説していきます。
「道路」に2m以上接していないと建物は建てられない
まず建物を建てるためには最低限のルールがあります。それは「敷地が2m以上道路に接していること」です。このルールの背景には、火災などが起きた際にちゃんと人が外に避難できるためという意味があります。
ちなみに街中でよく下記の図ような形の土地を見ますよね?
奥まった土地であるがゆえに何とか道路に敷地をくっつけて接する幅を2m以上確保しているのです。これは「敷地が2m以上道路に接していること」というルールを守るためなんです。そうでないと建物が建てられないからです。
ちなみに建物が建築できない不動産を何とかする方法について興味がある方は下記の記事も合わせて読んで下さい。
「道路」に見えるけど「道路」ではない道がある
一見するとどう見ても道路にしか見えないのに「道路ではない道」が存在します。
そもそも「道路」とは何か?
建築の世界における「道路」の定義は、簡単に言うと「行政が道路として認めた道」です。裏を返せば、行政が道路として認めていない道は見た目がいくら道路の様に見えても「道路」ではないのです。
先に説明のとおり、2m以上道路に接していないと建物は建築できませんから、行政が道路として認めていない道にいくら接していても、その敷地に建物を建てることはできないのです。
行政が道路として認める道にはいくつか種類がありますが、主要なものは以下の3つです。
- 1項1号道路
- 2項道路
- 位置指定道路
それぞれについて簡単に説明します。
1項1号道路とはいわゆる公道です。幅員が4m以上あり行政がしっかりと管理しています。
位置指定道路とは、私道について「建築できる道路として認めて下さい」と行政へ申請して認められた道路です。よって必ず私道になります。この道路には必ず下記のような「位置指定道路申請図」という図面が役所に保管されており、その名前のとおり、図面上で「ここからここまでの位置が道路です」と指定されています。
位置指定道路においては位置指定道路申請図に記載された道路の形状が絶対です。現況の道路がこの図面に記載されている幅員や形状と異なる場合は、図面のとおりの道路形状に復元する必要がある点に注意が必要です。
2項道路とは幅員が4mに満たない狭い道路のことです。公道の場合も私道の場合もあります。
これらの道路に敷地が2m以上接していれば建物を建築することができます。
言い換えると、これらの建築できる道に接していない場合は建物を建築することはできません。
都市圏では上記3つの道が概ね90%を占めますので他の種類は覚えなくてOKですが、気になる人のために残りの道路についても簡単に触れておきます。
- 1項2号道路
- 開発許可あるいは土地区画整理により作られた道路で幅員は4m以上あります。
- 1項3号道路
- 建築基準法という建築に関する法律が施行された時点ですでに存在していた道路で幅員4m以上の道路
- 1項4号
- 行政により2年以内に道路を造る事業が予定されているもの
2項道路ではセットバックが必要
先に説明した2項道路には重要な論点があります。それがセットバックです。
そもそも道路には将来的に幅員を4m以上になるように整備しましょうというルールがあります。したがって、2項道路である場合は、下記図のように建物を建築する際に前面道路の中心から2m後退して建築すること(「セットバック」といいいます)が義務付けられています。なお、この後退した部分は道路としてみなされるので自分の敷地として利用することはできません。よって前面道路が狭ければ狭いほど後退部分の面積が多くなり、自分の敷地として利用できる面積が少なくなるという点に注意が必要です。
私道を通行するには所有者の承諾が必要
当たり前ですが”私道は他人の土地”です。
道路(私道)といえど他人の土地を通行したり、水道や下水道を引き込みするために掘削したりするのには、所有者の承諾が必要です。私道の所有者の承諾がなければ、当然に建築工事のための工事車両も通行できません。そうなると建築工事をすることができないのです。
従って私道に面する土地を購入する場合、売主に引き渡しまでに私道所有者から通行や掘削に関する承諾を書面で取得してもらい、買主へ交付してもらうことが必要となります。
通常、私道に関する通行や掘削の承諾は口頭でなく書面で取得することが一般的で、この書面を「通行掘削承諾書」などと呼びます。通行掘削承諾書には下記の承諾内容を記載し、私道所有者から承諾の署名押印を貰います。下記のようなイメージの書類です。
通行掘削承諾書
●●殿
私は下記所在地に所有する私道について、貴殿に対し下記内容を無償にて承諾します。
- 本物件におけるガス管、上下水道埋設および引き込みのための掘削ならびに付随工事の件
- 本件における無償通行(工事車両含む)および無償使用の件
- 私から譲渡を受ける第三者に対する上記①②の事項の承継
- 貴殿が本物件を第三者に譲渡される場合、当該第三者に対して本承諾書の内容を承継させる件
●区●町1丁目2番3号
ミナンチャ太郎 ㊞
私道と通行掘削承諾書についてより詳しく知りたいかたは、下記記事にまとめていますから合わせて読んで下さい。
どこで何を調べればよいのか
不動産の道路調査は建築できる建物を決定する極めて重要な調査です。ポイントは道路の種類、幅員、所有者と管理者を明らかにすることです。順番に説明していきます。
道路の形状と所有者を確認
まずは公図を取得します。公図は法務局や登記情報サービスというインターネットサイトで誰でも取得することができます。下記の地図のような書類です。
出典:くすのき測地登記
上記の赤枠の土地が対象地だとすると、1014-13、1014-1、1014-2、1014-9、1014-12という地番(土地に割り振られた番号のこと)の土地が道路部分だと分かります。
次に、道路部分の謄本を取得して所有者が誰なのかを確認します。
行政が所有していれば公道、行政以外の個人や法人が所有していれば私道となります。
公道であれば問題ありませんが、私道である場合は先に説明のとおり、通行や掘削に関して私道所有者の承諾が必要となりますから、売主が承諾書を保有しているのか、承諾書を取得する予定であるのか、などを確認する必要があります。
なお、謄本の見方も過去に記事にしていますので、詳しく知りたい方は下記記事も確認してください。
現地調査をする
公図と謄本を確認した後に現地調査を行います。道路の現地調査で行うことは下記のとおり。
- 接道間口を計測
- 位置指定道路の場合は終端までの距離を計測
- 前面道路幅員を計測
- 隣接地を確認
- 道路中心の目印を確認
まず間口を測ります。先に説明のとおり、間口2mが無ければ建物を建築することはできません。
また、位置指定道路の場合には道路の端から終端までの距離が位置指定道路申請図に記載されている距離と合っているか確認します。下記の図の例で言えば、位置指定道路申請図に記載されている道路の長さが18.28mなのにも関わらず、計測の結果、例えば現況の道路終端までの長さが18mしかなかった場合、物件は位置指定道路に0.28m届かないため、接道要件を満たさず再建築できない物件ということになります。
次に前面道路の幅員を計測します。4m未満であれば2項道路の可能性が高く、セットバックが必要となります。4m以上であっても位置指定道路などで指定幅員に満たなかったり、公道で行政が認定する幅員に満たない場合は、敷地の一部を道路上に整備する必要がありますので、しっかり計測した幅員を記録しておきましょう。
加えて、隣接地を確認することも忘れてはいけません。隣接地の建物が比較的新しければ、ここ最近で建築された建物である可能性が高く、役所で下記の画像のような建築確認を申請した時の概要資料(建築計画概要書といいます)が取得できます。この概要書にはセットバックの後退距離なども記載されています。
道路中心線付近に杭や鋲がないかも確認しておきましょう。どこが道路の中心なのかを解き明かすヒントになります。セットバックの際には道路中心線から2m後退するわけですが、この道路中心線は現況の道路の中心とイコールであるとは限りません。過去に道路向かいや隣地の建物がセットバックのための協議を行政としていれば、道路の中心位置の目印として鋲を打っている場合があります。
役所で道路種別と各種幅員・境界を確認する
現地調査ができたら役所でその他の道路に関する重要な調査を行います。
まずは道路が公道である場合には、道路管理課(市区町村により名称は異なる)にて認定幅員と道路境界の確定状況を確認します。
認定幅員とは「この道路はこの幅員で行政が管理しています」という意味合いの幅員です。行政によっては現況幅員が認定幅員に満たない場合には、認定幅員に相当する区域まで敷地の一部を道路形状に整備するように求められる場合もあります。
また、道路(公道)と物件との境界が確定しているのかを確認します。道路境界が未確定である場合、土地を分割(分筆)することができないため、測量で境界を確定する必要があります。例えば、敷地の一部を分割して売るような場合が、道路境界を確定させる必要があるケースとして考えられます。
注意すべき点は、公道との境界を確定するには非常に時間がかかるという点です。個人所有の土地同士であれば、現地立会をして境界確認をした後、相互に境界を確認した旨の覚書を作成して完了となりますが、公道との境界確定はそう簡単にはいきません。概ね3か月以上かかります。
続いて、建築指導課(市区町村により名称は異なる)で建築基準法の道路種別を確認します。建築基準法の道路種別とは先に説明した1項1号道路、位置指定道路、2項道路などのことです。位置指定道路であれば位置指定図を取得して指定される道路の形状と位置を確認します。2項道路であれば、セットバックの方法について役所の担当者へよく確認し、建築計画概要書も取得して、道路の後退方法の参考にします。
私道の場合は売主へ通行掘削承諾の有無を確認
前面道路が私道で第三者が所有している場合や第三者と共有名義になっている場合には、当該第三者との間の通行掘削承諾書があるのかを不動産会社の担当者を通じて売主へ確認します。
売主が通行掘削承諾書を所有していない場合には、通行や建物建築の際の掘削工事ができないため、物件の引き渡しまでに売主に通行掘削承諾書を取ってもらうように交渉しましょう。
私道を所有する第三者が大勢いる場合には、現実的に全員から取得することは不可能という場合もあります。公図と登記情報にて前面私道から近くの公道に抜けるまでの私道部分の所有者をよく確認するようにしましょう。
まとめ
道路は不動産の命です。
道路を含めた不動産の調査は不動産会社の担当者が責任を持って行いますが、残念ながらプロでも稀に見落としをしたり、思わぬ落とし穴にはまったりすることがあります。
だからこそ、安心や納得感を得るため、いざとなったら自分でも最低限のポイントは調べられるというのは大きな強みなります。
不動産屋から重要事項説明を受ける場合でも、本質を突いた質問をすることができ、適切に物件に潜むリスクを排除することができるはずです。
本当に欲しい物件に出会ったり、親から大切な資産を受け継いだときには是非一度ご自身で物件の道路調査をしてみて下さい。
今回もここまで読んで下さりありがとうございました!