今回の記事では、不動産投資の現実的なリスクの側面についてお話ししたいと思います。
不動産投資は、資産形成の有効な手段として大きな魅力がありますが、高額な取引ですから、リスクを適切に理解せずに無計画な借入れや誤った投資判断をすることで、本業を脅かし破滅につながる可能性を秘めています。
そこで、不動産投資におけるリスクの正しい知識を解説します。
結論から言いますと理解すべき主要なリスクは下記のとおりです。それぞれ詳細について説明しますので、是非最後までお読みいただきたいと思います。
主要なリスク
この記事の信頼性
この記事はこんな人が書いています。
- 大手不動産会社で長年にわたり売買仲介を経験
- 宅地建物取引士
- 1級ファイナンシャルプランナー
- CFP認定者
リスク1: 頭金を用意しない
世の中には沢山の不動産投資の書籍やYouTube動画があふれていますが、中には「頭金を出さずに全額ローンで高利回りの物件を購入すること」を推奨しているものがあります。
これは通常相場で考えられない超高利回りの物件のみに成立する話であり、非常に危険なことです。頭金を出さずに全額ローンで物件を購入できれば、誰でも簡単に不動産投資ができるように思われますが、実際にはそう上手くはいきません。
不動産投資において、借入をどう利用するのかは成功に関する非常に重要なファクターです。以下のケースを見てみてください。物件の利回りは昨今ではなかなかお目にかかれない8%というかなり甘い条件にしています。購入諸経費は別途、自己資金で拠出する前提です。
なお、物件の保有コストは下記費用を鑑みて、年額家賃の約20%の想定とします。
- 固定資産税
- 火災保険料
- 管理委託費用(賃料の約5%)
- 清掃費用
- 入居募集費用
- 建物全体の修繕費用
- 退去時の室内修繕費用
また、常時満室はあり得ませんので、年間の空室率を約10%と想定します。
例1:物件価格の3割を自己資金、7割をローン
(仮定)
- 予算:5,000万(自己資金1,500万+借入3,500)
- 物件の表面利回り:8%
- 保有コスト:賃料の20%+ローン返済額
- 空室による未収賃料(空室リスク):賃料の10%
- 融資条件:金利1.5%、25年返済
- 返済額(年):約168万円
(試算)
- 物件価格…5,000万円(①)
- 賃料収入…①×8%(利回り)=400万円(②)
- 保有コスト…②×20%(保有コスト率)+168万円(年間返済額)=248万円(③)
- 空室による未収賃料…②×10%=40万(④)
- 実質年間収益…②-③-④=112万円(月額:9.3万)
例2:物件価格の全額を借入
(仮定)
- 予算:5,000万(自己資金0万+借入5,000)
- 物件の表面利回り:8%
- 保有コスト:賃料の20%+ローン返済額
- 空室による未収賃料(空室リスク):賃料の10%
- 融資条件:金利1.5%、25年返済
- 返済額(年):約240万円
(試算)
- 物件価格…5,000万円(①)
- 賃料収入…①×8%(利回り)=400万円(②)
- 保有コスト…②×20%(保有コスト率)+240万円(年間返済額)=320万円(③)
- 空室による未収賃料…②×10%=40万(④)
- 実質年間収益…②-③-④=40万円(月額:3.3万)
お示ししたとおり、不動産投資のキャッシュフローはローン返済額に大きく影響を受けるのです。上記例2の全額借入した場合では、5,000万円もの借金をして購入した物件から得られる実収入はわずか月3万円程度です。
空室率がさらに上昇したり、築年数経過により賃料が下落すると赤字にもなりかねません。
頭金を用意しないで不動産投資を行うことは赤字リスクが高いですが、自己資金を多く投入することでリスクは減少します。当然のことのようですが、実際には多くの人がこの点をよく理解していません。
僕も「全額ローンでマンション経営をしたい」という相談を受けることがあります。しかし、頭金なしで不動産投資を行うことは大きなリスクを伴うことを常に説明しています。
不動産投資は大きなリスクを伴うものです。慎重な計画と適切な資金の用意が必要です。投資においては、安全第一を心掛けましょう。
なお、収益物件を購入した際の実際のコストや収支について、詳細な解説記事を書いていますので、下記も合わせてご一読ください。
リスク2: 流動性
不動産投資は株式投資と比較して”現金化”しにくいです。
株式投資では、購入した株式を同日に売却することが可能ですが、不動産はそうはいきません。不動産の場合、売却には通常、3ヶ月から半年以上の時間がかかります。さらに、ネット証券の普及により、株式取引の手数料が大幅に低下し、低いコストで売買を繰り返すことができるのに対し、不動産の場合、売買ごとに仲介手数料や不動産取得税、登記費用などの高額な諸経費が発生します。
さらに、投資金額のロットも大きいため、損失を被った際のダメージは人生をも破壊しかねません。当然に元本の保証もありません。これらが国債などと比較して不動産投資に高いリターンが求められる理由でもあります。
不動産投資のメリットは、流動性が低いという欠点を差し引いても、ローンを利用したレバレッジをかけることで高いリターンが得られることです。逆に言えば、低いリターンしか得られない不動産投資は、他の投資と比較して何のメリットもありません。
株式投資との比較についても過去に記事にしていますので、不動産投資の優位性を相対的に考えたい方はこちらも合わせてご一読ください。
リスク3: 人口の減少
日本の世代別人口ピラミッドの構造はこの30年で大きく変容しました。日本は既に少子高齢社会という大きな課題に直面しています。40歳前後の団塊のジュニア世代が最後の人口増加層であり、その下の層の人口は減少傾向にあります。
政府はこれら課題の解決に向けて遅すぎるスタートを切りましたが、残念ながらこのトレンドはそうたやすく変わるものではないと感じます。移民を受け入れるとか、前代未聞の経済支援政策を行うなどしなければ無理でしょう。
学生の数は減り、団塊の世代が大量に退職するため、将来的には就労人口も減少するでしょう。従って、賃貸需要も萎んでいくことは避けられません。
これは不動産投資に大きな影響を及ぼすでしょう。かつては満室だった学生や単身者向けのアパートやファミリー層向けのマンションも、現在は需要と供給のバランスが大きく崩れています。
リスク4: 利回りだけを見て立地を軽視する
不動産は立地が全てです。
立地を軽視した不動産投資の最大のリスクは出口がないことです。僕も長い不動産屋経験の中で、地方物件に手を出してしまい、売るに売れず、固定資産税を払い続けており、困っているお客さんに沢山会いました。
はっきり言います。”地方物件はタダでも売れません”
購入時に利回りが高いの当たり前です。だってタダ同然だからです。
投資家は利回りを最優先する傾向があります。同じ金額を投資する場合、高い利回りは収入を増やす大きな要因です。ただし、高い利回りだからといってどんな物件でも良いわけではありません。
時折、表面利回りが15%を超える地方都市の物件への投資を検討する方がいますが、表面利回りが15%でも、実際には30%から40%の空室率がほとんどです。
さらに、各部屋の賃料を見ると、最近入居した人の賃料は非常に安く、数年前から住んでいる人の賃料は高いという、同じ物件内で賃料の格差が見られます。このような高利回り物件の多くを調査すると、地方都市での人口流出が進行し、駅周辺により広くて新しい安価な物件が建設されていることが殆どです。
地方はそもそも賃貸需要が低く、家賃を下げれば入居者が見つかるという安易な考えは通用しません。
不動産投資は一度購入するとすぐに売却できないため、長期的な視点でリスクを考慮し、良い立地を選ぶことが重要です。
リスク5: 1R物件に投資する
そもそもですが、ワンルーム物件に対しては大手銀行を含めて殆どの金融機関は融資をしません。融資するのは一部の高金利なノンバンクくらいでしょう。銀行によって異なりますが、規定する平米数以上の物件でないと融資の土台にも乗りません。
また、ローンを上手く借りられたとしても、返済額これに加えて、管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険料、管理委託料(委託する場合)が固定費としてかかってきます。
ローンを組んでワンルーム物件へ投資した場合、赤字になる場合が殆どです。
加えて、ワンルームはその名のとおり1部屋しかありませんので、空室リスクは非常に高いです。また、入居者の入れ替わりが比較的頻繁で、入居期間が短いため、入居者の募集や退去に関連するコストや手間が増加する可能性があります。さらに、競合が激しい地域では、ワンルーム物件は既に飽和状態であり、賃料の競争も激しくなるため、利回りが圧迫されます。
ワンルームマンションへの投資は、一棟収益物件と比較して少ない自己資金の拠出で済むため、初心者にとって魅力的に見えることがありますが、注意が必要です。
リスク6: 地震大国
日本は頻繁に地震が発生する国です。
不動産投資において、地震は非常に大きなリスクです。また、やっかいなことに現代の科学では正確に予測することは不可能です。
特に、震度7以上の大地震が発生した場合、建物の被害や倒壊のリスクがあります。これにより、投資物件の価値が大きく減少、またはゼロとなり、収益に多大なる影響を及ぼす可能性があります。
不動産投資を行う際には、建物の耐震性を注意深く検討する必要があります。新しい建物は、新耐震基準に基づいて設計・建設され、地震に対する高い耐性を持っています。一方で、昭和56年以前に建築されたいわゆる旧耐震基準に則って建築された古い建物は地震への耐性が低く、より建物損壊のリスクが高いです。
築年数が古い建物については、地震リスクを軽減するために、必要に応じて補強や改修を行うことが重要となってきます。
地震保険の利用なども検討できますが、いずれにしてもコスト高となり、利回りを圧迫します。
最後に
不動産投資をするうえで事前に知っておくべき6つのリスクについて解説させていただきました。不動産投資は将来の収益を追求する素晴らしい手段ですが、それに潜むリスクを軽視することはできません。
全額ローンでの投資は魅力的に聞こえますが、キャッシュフローの悪化や赤字リスクを高めます。安全性と収益性を追求するため、相当に利回りが高い物件以外は、頭金は3割以上は拠出することを検討すべきでしょう。
また、不動産投資においては、立地にとことん拘るべきです。
不動産投資はリスクを伴いますが、それらのリスクを正しく理解し、冷静な判断と情報収取ができれば成功の可能性がグッと高まります。みなさんが不動産投資にて成功されることを願っております。
今回もここまで読んで下さり、ありがとうございました。
収益物件についてこれを買ってはいけないという記事も書いていしますので、是非、合わせてご一読ください。