今回は一般の方にはあまり馴染みの無い「底地」について話をしようと思います。不動産投資と一言でいっても他人と同じことをしても同じ結果しか生みません。あなたの投資の知識の一つに「底地」というエッセンスを加えることで、より幅広い不動産投資の選択肢が広がるはずです。
専門用語や法律用語はなるだけ排除して分かりやすく説明します。
この記事で分かること
この記事の信頼性
この記事はこんな人が書いています。
- 業界大手の財閥系不動産売買仲介会社で17年間に亘って仲介業務を経験
- 現在まで300組以上の売買仲介案件を成約
- 地主の底地整理を多数経験(同時売却や交換案件含む)
- マンションデベロッパーと協働した立体交換案件も成約
- 1級ファイナンシャルプランナー
- CFP認定者
- 宅地建物取引士
「底地」とは何か
底地とは建物の所有を目的に誰かに貸している土地のことを言います。この貸している土地を「底地」と呼び、底地を所有している人を「底地人」とか「地主」とか言ったりします。一方、底地の上の建物を所有している人のことを「借地人」と言います。
底地は一般市場に出回ることがほぼ無いため、一般の方には馴染みがないですが、不動産業者間の取引ではよく見かけます。
底地の主な売却理由は、地主の高齢化に伴う資産整理だったり、相続発生に伴う現金化などが一般的でしょう。
「底地」は借地人に貸している土地ですから、賃貸物件と同じように、地代(賃料)が発生し、借地人から地主へ支払われます。
また、地代以外にも更新のタイミングで更新料が支払われますし、借地人が建物の老朽化により建て替えをする場合には「建て替え承諾料」といった名目で借地人から地主へ支払いがされます。
紛れもない「収益物件」ですね。
底地の業者買取相場は所有権価格の約10%
前述のとおり、底地はすでに借地人が利用している土地ですから、住宅取得目的の一般人に向けてはなかなか売れません。後ほど詳しく説明しますが、処分の方法もある程度決まっています。その中でも一般的に多い売却先はプロの不動産業者です。
これらの不動産業者はだいたいが底地買取を専門とした買取業者で、買取後に借地人と交渉を行い、借地人に対して売却したり、所有権化して市場で売却したりして利益を得ます。
不動産業者が底地を買い取る場合の相場は、物件や借地人との関係性などにもよりますが、概ね所有権価格の10%程度となります。例えば、所有権として1億円の市場価値がある土地でしたら、1,000万円程度で購入します。
安いですね。もし所有権化できれば、経費を考慮しなければ、単純に10倍の価格に跳ね上がりますから、商品化までに時間はかかるものの利幅は大きいです。
底地が「売れない」というのは嘘
底地は市場性がないので売れない。こんなことを耳にしますが、そんなことはありません。詳細は後記の出口戦略で話ますが、最悪は所有権価格の10%で業者が買い取ってくれますので、郊外の物件に手を出さない限り、余程酷い物件でなければ売却可能です。
所有権価格の10%では安いと思われるかもしれませんが、購入価格も似たような金額なので損失は小さいと思います。
底地の出口戦略は5通り
底地を処分する方法が5通りあります。
不動産業者に売る
前述のとおり、最も手間の無い方法です。現況の状態のまま丸呑みで買い取りしてくれます。売却価格の目安は概ね所有権価格相場の10%となります。
買主がプロの不動産業者なので基本的に売却後の物件の補修責任(瑕疵担保)や面倒は一切ない条件で売却可能です。
借地人に底地を売る
二つ目は借地人に対して底地を売却する方法です。借地人からしてみると将来的な地代や建て替え承諾料、更新料の支払いがなくなることと、底地を取得することで完全所有権化(底地+借地権=所有権)できるため、大きなメリットがあります。価格交渉が一番難しいポイントとなりますが、目安は所有権価格×前面道路路線価の底地割合(※)になると思います。
※前面道路路線価の底地割合とは、その土地が面している前面道路の路線価に設定された相続税評価算出のための借地権の権利割合。路線価は国土交通省のHPで確認できます。前面道路路線価に記載されたアルファベットが借地権割合を表します。(A=10%、B=20%、C=30%、D=40%)底地の割合は「1-借地権割合」で求めます。
借地権と底地の割合は、基本的には当事者の合意で決めるもののため、全面道路路線価の借地権割合はあくあで参考にしかなりませんが、交渉のスタートラインの価格としてはよく用いられます。
借地人の借地権を買い取って所有権化する
前述の「借地人に底地を売る」の逆のパターンです。底地上に存する借地権者の借地権を買い取る交渉をします。借地権を取得することで所有権化(底地+借地権=所有権)でき、資産価値の大きな上昇が期待できます。所有権化した後に、共同住宅を建築して収益物件とすることもできますし、売却してキャピタルゲインを狙うのもよいでしょう。
借地人との交渉プロセスは「借地人に底地を売る場合」とほとんど同じです。
借地人と一緒に「底地+借地権」を売る
自身の所有する「底地」と借地人の所有する「借地権」を同時に一般市場で売却する方法です。底地と借地権がセットになることで、買い手は「所有権として」その物件を購入することができます。
売却代金を予め地主と借地人間で決めた割合で分配します。
この方法は一般流通市場での売却が期待できますので、所有権価格に適した相場で売却することができるメリットがあります。
底地と借地を交換して所有権化する
なんだかややこしい感じがしますね。でも大丈夫です。ここで言う「交換する」の意味は、地主と借地人との間で、地主の所有する「底地」と借地人が所有する「借地権」をそれぞれの権利割合に応じて交換し、お互いに所有権化した不動産を取得することを指します。
例えば100平米の土地があって、地主の所有する底地の権利割合が40%、借地人の所有する借地権の権利割合が60%であったとしましょう。この場合、地主が40平米の土地を、借地人が60平米の土地を取得できるように、土地を分割して地主と借地人とでそれぞれ所有権化して取得するイメージです。
図にするとこんな感じです。
底地のメリット
底地を収益不動産として所有する場合のメリットは下記のとおりです。
安い
これが一番のメリットでしょう。個人間売買でも前面道路路線価の借地権割合に応じて所有権価格の約30%から40%(物件や地主との交渉内容によって異なります)、業者買取と同じ目線で考えるならば所有権価格の約10%程度の価格で取引されます。
通常であれば総額が張ってしまいなかなか手が出ない物件でも、このくらい割安なら購入できそうな気がしてきますね。
安定した収益性
利回りは低めではあるものの、地代の相場は土地の固定資産税額の概ね2.5倍~3倍程度と言われており、コストパフォーマンスは高いです。
また、メンテナンス費用などはなく、固定資産税以外のランニングコストも皆無のため、基本的に赤字経営はありません。
空室リスクなし
アパートやマンションと違って空室リスクはありません。賃借人が退去して募集する間家賃が入らないということもありません。
いつでも売れる
前述のとおり業者買取を前提とすれば、専門の不動産会社が買い取りしてくれます。不要な場合は賃借人との交渉や手続きも一切必要なく売却できます。
臨時収入がある
頻繁ではありませんが、地代以外に、借地権更新の際の更新料であったり、建物老朽化に伴って借地人が建て替えをする際の建て替え承諾料、借地人が第三者へ借地権を譲渡する場合に必要な譲渡承諾料など、時期ごとに纏まった収入が発生する可能性があります。
化ける可能性がある
先にお話ししたとおり、底地取得後に借地人へ底地を売却した場合や、借地人と協力して借地権と底地を同時に売却する場合、大きな利益を生む可能性があります。底地の取得価格が安い分、所有権相場に準じた価格の物件に化けたときはインパクトが大きいです。まさに大儲けです。
底地のデメリット
一方デメリットもしっかり上げておきます。
銀行融資が使えない
底地を取得する際に、銀行から資金を借りる方法が使えません。銀行からすると底地のみを担保にしても、流通性が低く担保評価が出ないためです。このため、取得資金は基本的には自己資金で捻出する必要があります。ノンバンクで一部融資をするところもあるようですが、金利がすごく高いのでお勧めはできません。
加工するまでに時間がかかる
借地人へ売却をしようとする場合や、借地人と協力して借地と底地を同時に売ろうとする場合には、借地人との事前交渉が必要となります。ですが、こちらの売却したいという意向はこちらの都合であって、借地人には関係ありません。よほどタイミングが良い、例えば相続のタイミングと重なるだとかでないと、いきなり交渉して直ぐに売りましょう、買いましょうとはならないでしょう。根気よく交渉していくことが必要となり、時間と労力がかかります。
借地人との関係に気を遣う
借地人は非常に重要なキーマンです。売るにせよ、買い取ってもらうにせよ避けてはとおれません。また、賃貸借についても先代から続く代々の取り決めなどがあったりする場合もあり、その辺の慣習も一定程度は尊重してあげる必要があります。とにかく係争にだけはならないようにしなくてはいけないため、借地人ガチャで変人を引いてしまうと苦労するかもしれません。
郊外物件はどうしよもない
底地を買う場合、郊外エリアの物件は買わないように注意してください。一般流通物件でさえ買い手がつかないような場所では底地など売れるわけがありません。場所によっては不動産業者も手を出さないので、買取で処分しようにもできません。出口がないので持ち続けなくてはならなくなります。
物件情報を入手しにくい
インターネット広告などにはまずないでしょう。通常は一般市場に出回らないため、情報自体はかなり希少と言えます。この点は通常物件と比較してデメリットだと思います。まぁ希少だからこそビジネスチャンスがあるのですが。
情報の入手方法については後述に譲ります。
底地情報はどこにあるのか
では底地情報はどこでどうやって入手すればよいのでしょうか。ヒントは地元不動産会社と銀行系不動産会社にあります。
私は売買案件に関しては不動産情報の質や量はやはり大手不動産会社が強く、中小企業はかなわないと思っていますが、底地案件については別です。地元の地域密着型の小さな不動産会社に軍配があがります。
まず、底地が動くきっかけは殆どが相続に関連します。
相続が発生して納税のために不採算資産を処分したい、あるいは相続発生前の自身が元気なうちに底地を整理しておきたい、などが主な売却理由です。
キーマンは「地主」です。
この地主を囲っているのが、先代から代々付き合いのある地元不動産屋だったりします。駐車場の管理からアパートの管理まで担う地元不動産会社へ、流れで底地整理の相談もするのです。
もうひとつは銀行系不動産会社です。具体的には三菱UFJ〇〇、だとか、三井住友トラスト〇〇、みずほ〇〇などです。彼らのビジネスモデルは銀行を通じて不動産情報を獲得し市場で捌くことです。
総資産営業と称して金融機関が地主を囲い込み、相続対策から遺言信託、遺産整理業務までを金融機関グループの関連会社ですべて取り込んで収益を上げようとします。このため、銀行に取引のある地主の不動産情報が関連するグループの不動産会社に流れてくるのです。
以上の理由から、底地情報の入手においては、老舗の地元不動産会社と銀行系不動産会社が欠かせません。真剣に底地物件を探していることと、不動作業者よりは少しだけ良い条件で購入する意思があること、合わせて、購入資金をしっかり用意できていることを伝え、底地情報が出た場合に一声かけてもらうようにお願いしましょう。
一度、電話しただけ、メールで問い合わせただけでは忘れらてしまいます。彼らは日々何人もの顧客を抱えて対応しているからです。継続的に顔を合わせ、フェイストゥフェイスの関係を構築するように心がけましょう。
一度でも売買取引が成立すると関係は一気に強固になります。不動産会社からはお得意さん扱いになりますので、まずは1件取引を成功させることを目指してみましょう。
まとめ
皆さんいかがでしたか?不動産って本当に奥が深くて面白いですよね。
底地案件は一般的にはマイナーなイメージですが、不動産業界にいると良く出会います。一見してとっつきにくそうですが、セミプロのお客さんなんかは情報があれば躊躇なく買い向かいます。きっとそんな皆と違う一本裏の道を行く投資家が大きな利益を上げるのだと思います。
また情報入手には不動産会社との良好な関係は欠かせません。真剣な気持ちを伝えて一生懸命に相談すればきっといいパートナーになってくれるはずです。
皆さんが素敵な物件と出会えることを願っています。
今回もここまで読んで下さりありがとうございました!