不動産の指値(値引き交渉)ってどうやれば上手くいくのでしょうか?また、交渉はいくらからスタートして落としどころはどの程度なのでしょうか?こんな疑問をお持ちの買主さんも多いのではないでしょうか。
限られた予算の中で、少しでも安く買いたいというのは買主の当然の心理です。
今回はそんな迷える買主の皆様へ、不動産売買仲介のトップセールスマンがお答えしたいと思います。
※今回の記事は主に住宅を購入する場合を想定しています。事業用不動産の場合は少し異なりますのでご了承ください。
指値の仕方が分かる目次
この記事の信頼性
この記事はこんな人が書いています。
- 業界大手の財閥系不動産売買仲介会社で17年間に亘って仲介業務を経験
- 現在まで300組以上の売買仲介案件を成約
- 1級ファイナンシャルプランナー
- CFP認定者
- 宅地建物取引士
指値交渉のスタートと落としどころ
結論から言います。
一般的な指値交渉のスタートの目安は物件価格の5~6%が適当です。また落としどころは概ね3%前後です。もちろん物件や売主よってこれらの幅は様々で一概には言い切れません。ケースバイケースであることは念のため申し添えます。
書籍やネット記事などで指値交渉の目安は10%などというのをよく目にしますが、やりすぎです。大きな指値金額から始めることで有利に交渉できるという考えは素人の発想です。忘れてはいけないのは物件の向こう側には売主がいるということです。指値交渉はその名のとおり、機械相手のゲームでなく売主との「交渉」であることを忘れてはいけません。
5,000万円の物件に対していきなり500万円の指値を入れたら、売主の心象を損ないます。売主からすれば「足元を見られている」と感じ、本来であれば通るはずの条件交渉も結果的に通らなくなるのです。
物元業者を通して交渉する
指値を有利にするためには、その物件を売主から直接預かっている不動産仲介会社(「物元業者」といいます)を通じて交渉することが非常に重要です。
不動産仲介業を理解するにあたり、「両手」「片手」の概念は避けて通れません。
「両手」とは、売主からも買主からも直接仲介の依頼(媒介契約)を受けて取引を成立させ、売主と買主双方から規定の仲介手数料を受領する取引を指します。
一方、「片手」とは、売主または買主のどちらか一方のみから直接仲介の依頼(媒介契約)を受けて取引を成立させ、売主または買主の一方から規定の仲介手数料を受領する取引を指します。
つまり、不動産仲介会社から見れば「両手」取引は「片手」取引の2倍の手数料を取れることを意味します。
このため、価格交渉などを行う場合には、物元業者を通じて交渉することが重要なのです。物元業者はあなたの購入希望の商談を纏めれば、売主とあなたと両方から手数料が貰える両手取引になるからです。商談を成立させる熱意も片手取引と比べて高くなります。
物元業者であるか否かは、物件の販売図面や不動産会社のサイトで確認できます。物件の図面の帯に「専属専任媒介」「専任媒介」「一般媒介」と記載のある物件は物元業者となります。一方、「仲介」「媒介」とだけ記載されている物件は物元業者ではありません。また、不動産会社のサイトでも同様に媒介契約物件である旨の記載や「当社の媒介物件」などと表示している会社は物元業者であると分かります。
なお、「両手」「片手」については過去に下記の記事でも解説していますので、ご興味があれば合わせて読んでみてください。
売却理由と売主を知る
孫子の言うとおり「己を知り、敵を知れば百戦して危うからず」です。まずは売却理由と売主の腹の内を担当営業マンに聞きましょう。
売却理由は様々で、「債務返済」「共有解消」「買い替え」「相続物件の処分」「単純資産売却」などが考えられます。期限までに売却できないと困る場合や多少価格交渉を受け入れても売却して手離れしたい場合などがあります。
また売主の腹づもりも可能な限り聞き出すとよいでしょう。腕の良い営業マンの場合、予め売主との間で価格交渉の幅を握っています。事前に交渉余地が分かれば有利な交渉ができるでしょう。
ここで重要なポイントは、不動産営業マンとしっかりとした信頼関係を構築して味方につけることです。誠意の無い態度や「この物件が欲しい」という熱い気持ちを通り越して「値引き」にばかり執着した態度は信用を失います。不動産営業マンは売主の担当でもありますが、あなた(買主)の担当でもあるのです。
優秀な担当者なら決裁権を与えてみる
物件の担当者が優秀で信頼できる場合、いっそうのこと交渉の決裁権を与えて任せてみるのも手です。例えばあなたの気に入った物件が5,000万円であった場合、不動産屋へこう依頼します。
「4,750万円で購入申込をしたい。4,750万円から4,850万円までの金額で折り合いをつけてくれれば買うので売主と交渉して纏めてきて下さい」
他方で営業マンは売主からも「4,800万円以上で纏めてくれれば売却する」などと事前に言われている場合があります。この場合、交渉のやり取りでいったりきたりも必要なく、買主も売主も納得できる金額で商談が成立します。或いは売主の希望条件が「4,900万円以上」であった場合は、4,850万円から4,900万円の間で何とか纏めるべく売主と必死で交渉してきます。4,875万円という妥協案を売主から引き出してくるかもしれません。いずれにしても交渉において営業マンの自由度が上がるため、通常では引き出しにくい譲歩案を獲得できる可能性があります。
金額交渉の面倒をなくし、売主とスムースな取引がしたいという場合は有効な方法です。
自分より条件の良い2番手が来たらどうするか
売主からしてみれば条件の良い買主へ売却することが優先事項です。
あなたが指値交渉中により良い条件の2番手が購入申込をしてきた場合、あなたはその2番手の条件以上で購入するか否かを決断しなくてはいけません。例えば、2番手が満額(指値なし)で購入申込をしてきたのであれば、あなたは満額で購入するか、購入を諦めるかを決断しなくてはいけません。
こうした事態を少しでも避けるための方法は、売買契約締結をなるだけ早くすることです。購入申込時に売主に対して、条件合意した際にはいつまでに売買契約をしたい旨を伝え、売買契約日の設定を極力近い日付けにしてしまうことが有効でしょう。
買付の優先順位などについては下記の記事を参考にしてください。
本当に欲しいなら満額
指値の話なのに満額かよと思うかもしれません。しかし大事なことなので言います。あなたにとって本当に手に入れたい物件であるならば、指値をしてはいけません。あなたが欲しいと思う物件は他の人も欲しいのです。指値交渉をしている間に他から満額で申し込みをされたら買い損ねてしまいます。
不動産購入の基本は満額です。
価格交渉は購入を後押しする一助に過ぎず、本当に大切なことはあなたが「この物件を欲しい」と思う気持ちです。物件との出会いは巡り合わせです。これだと思った物件に出会ったら、価格云々の前に買い損ねないことに注力すべきです。
また「価格を引いてくれるのが当たり前」とは思わないことです。よく希望の価格交渉が通らず文句を言う人がいますが、それは買主の都合であって売主には全く関係ないことです。価格交渉には一切応じない売主さんも沢山います。
今一度、購入動機は「値引き」でなく「欲しい」であることを思い出してください。
掘り出し物など無いと知る
「掘り出し物(相場より割安)はありませんか?」不動産営業をしていると必ず一度は聞かれる質問です。
答えを言います。掘り出し物はあります。でも、残念ながらあなたの元には回ってきません。
相続税の納税までに売却しなくてはいけない、買い替えで購入物件の決済日までに売却しなくてはいけない、このような事情の売却物件は確かにありますが、不動産屋はそういった物件を業者へ売却します。何故か?確実な決済の履行と買主に不利な条件を丸呑みして買わせる必要があるからです。一般個人のように融資特約付きの売買や瑕疵担保(物件に欠陥があった場合の補修責任)を負う契約はできません。だから一般個人にはその類の物件は回ってこないのです。
不動産屋が物件を業者に買わせる理由については過去により詳しく記事にしていますので、ご興味があれば下記を読んでみてください。
いつ巡ってくるかも分からない空想(理想)の物件を待ち続けていてはいつまでたっても購入できません。それよりも今ある情報の中で自分の条件に最もマッチする物件を探すほうが現実的なのです。
まとめ
いかがでしたか。今回は不動産屋の立場から指値交渉を見つめ直してみました。
大切なポイントは価格だけに捕らわれず「この物件が欲しい」という気持ちを大切にすることです。指値が通ろうとも通らなかろうとも購入して本当によかったと思える物件であることが重要なのです。
また、価格を含めた条件交渉においては不動産営業マンとの信頼関係は非常に大切です。お互いに誠意をもって納得がいくまで相談してみましょう。あなたの「欲しい」気持ちをしっかり伝えれば必ず味方になってくれます。
皆さんが素敵な物件と巡り合えることを祈っております。
今回もここまで読んで下さりありがとうございました!